ライフサイクル
~乳幼児期~
誕生~信頼感の基礎
私たちの人生はお母さんから生まれる時点から始まりますが、人は生まれてすぐに立ち上がり、走ることもできるようになる他の動物と違って、自分では何もできない、非常に未熟な状態で生まれてきます。自分で栄養を取る事も出来なければ身体を動かすこともままならない、ただ泣くことしかできない存在です。
多くのお母さんは赤ちゃんが泣いていれば、おなかが空いているのかしら、おむつが汚れているのかしらと考えを巡らせ、おっぱいをあげたり、おむつを替えてあげたりします。お母さんが赤ちゃんのニーズに過不足なく応えていく中で赤ちゃんの心と身体ははだんだんと育っていきます。
この程よく心地よい状態に保たれる体験を通して、赤ちゃんは、自分はこの世界で生きていける、この世界に守られているという基本的な信頼感を形作っていく事になります。この体験が不足すると、人を信じることが難しく、自分がとても頼りない存在に感じられ、いつも不安で誰かや何かに常に依存していないといられないような人になってしまうかもしれません。
自分の欲求か愛するお母さんか
2歳ころになると、それまで好き勝手にやっていた母子関係に変化が起こります。
子どもの方にはより明確に自分で好き勝手にしたい気持ちが芽生え、お母さんの方ではそろそろ躾をと考え始めます。
躾というと、排泄訓練が引き合いに出されることが多いですが、幼稚園に入れる前におむつを取っておきたいお母さんの希望に子どもが応えてトイレで排泄が出来るようになります。この頃、子どもは結構な葛藤を解決することになります。それまでたくさん食べてよいウンチをすることで喜んでいてくれていたお母さんはそれでは喜んでくれなくなります。子どもには今まで通り好きな時に好きな場所でウンチやおしっこをしたいという気持ちがあるのですが、それではお母さんは喜んでくれなくなる。つまり、自分の欲求と愛するお母さんの笑顔とを天秤にかけることになります。
”お母さんの笑顔のために”が大事
ここで多くの子どもはお母さんの笑顔を選んで排泄自立の方向に進むことになり、ここで自律性を身につけ、自分の欲求をコントロールできるようになります。
この時に大事なのが、自分の欲求と天秤にかけられるのはお母さんの笑顔であって、叱られるからとかぶたれるからというものであってはまずいのです。躾が暴力的であったり、あまりに厳しすぎたりすると、一時、きっちりかっちりした「良い子」になるかもしれませんが、大きくなってから、完璧主義で融通がきかなかったり、自分の考えや行動に自信が持てなかったりするところが目立つようになってしまうことがあります。
また、他の人より優れているかいないか上か下かにこだわってばかりいたり、思い通りにならないと激しく怒ってしまったりするようになる人もいます。
子供の主体的な行動を認めてあげましょう
同じ頃、子どもは、一人で立って歩いて、お母さんから離れられるようになりますが、この時期、親が子供の主体的な行動を認めてあげられないと、お母さんとは違う自分であることが許されず、これぞ自分であるという感覚の土台が上手く作れないといったことも起こります。
性別の認識
3歳ころから5歳ころにかけて、子どもには性別の感覚が生まれ、それに伴い、自分や他の人の性別に対する興味や関心が高まります。
男の子であれば、自分はお母さんとは違う、お父さんと同じ身体をしているようだということが分かるようになり、やがて男の子は、お父さんの重たい鞄を持ってみたり、パソコンのキーボードを叩いてみたりとお父さんのマネをするようになります。
女の子も女の子で、化粧道具や香水に興味を持ったり、お母さんが自分にしてくれるみたいにぬいぐるみの世話をしてみたりとお母さんのマネをするようになります。
男の子・女の子らしさの基礎
子どものこれらの行動には、同性の親にあこがれる気持ちばかりでなく、異性の親をめぐって同性の親と競争する気持ちが含まれています。
5歳くらいの息子さんから「大きくなったらママと結婚するんだ」とプロポーズを受けたことのあるお母さんや、娘さんからまるで奥さんの様に世話を焼かれたことのあるお父さんも少なくないと思います。
この時期の子どもは異性の親に恋をします。しかし、お父さんにはお母さんが、お母さんにはお父さんがいます。
男の子(女の子)がお母さん(お父さん)と結婚するためには、お父さん(お母さん)をやっつけなければなりません。でも、そうすると、反対にやっつけられてしまいそうで怖いし、とても競争に勝てそうにありません。
それに、お父さんもお母さんも両方同じくらい大切な存在です。
このため、この初恋は結局あきらめざるを得ない結果に終わることになります。そして、後には、同性の親にあこがれ、男の子であれば、お父さんのような男の人になりたい、女の子であれば、お母さんのような女性になりたいという気持ちが残り、これが子どもの男の子らしさ、女の子らしさの基礎になります。
両親の良心に倣う
また、この時、お父さんの男性像やお母さんの女性像と一緒に、親の道徳心や規範意識も子どもの中に取り入れられます。
これが良心の芽生えとなり、この時期に規則やルールを守る力の土台を身につけて小学校の入学式を迎えることになります。
この過程がスムーズに進むためには、お父さん、お母さんがそれぞれ自分の性役割に満足し、お互いや子供の性別を尊重することが大事になります。
乳幼児期に”わたしたち”が形作られます
このように乳幼児期は、「三つ子の魂百までも」と言われるように、性格形成や、他の人との関わり、社会で生きていくための基本的な能力の基礎を形作る大事な時期となります。
また、家庭から離れた社会生活が本格的に始まるのは後の学童期からになりますが、多くのお子さんが保育園や幼稚園に通われることになる、もしくは通われていることと思われます。この時期に、保育園や幼稚園での小さな集団生活の中で、自閉スペクトラム症やADHDといった発達障害の特徴が明らかとなるお子さんもいらっしゃいます。